自分の容姿を理解し、周囲から誤解されないよう、できるだけ目立たずに暮らしてきた一人の中年男性。女性との距離にも気を配り、余計な騒ぎを起こさないことを心がけていた彼の生活が、ある日を境に大きく変わり始めます。
きっかけは、これまで接点のなかった女性たちが、なぜか自分から近づいてくるようになったことでした。
突然挨拶をされたり、電車の中で妙に距離を縮められたりと、最初は偶然とも思える出来事ばかり。しかし、不可解な出来事が重なるにつれて、主人公もさすがに何かがおかしいと感じ始めます。
『女の子吸引体質になったおじさんEX〜おじさんが防犯ブザーを持つべき〜』は、そんな中年男性が次々と予想外の騒動に巻き込まれていく、常識逆転型の異色コメディです。
面白いのは、主人公自身が女性に積極的に近づこうとしているわけではないところ。むしろ本人は平穏に暮らしたいだけなのに、周囲の行動がどんどん大胆になり、これまで守ってきた生活の秩序が崩れていきます。
なぜ突然、こんなことが起こるようになったのか。そして、本人の戸惑いをよそに、女性たちの行動はどこまで予想外の方向へ進んでいくのか。
主人公の慎重な性格と、次々に起こる騒動との落差が、本作ならではの独特な面白さにつながっています。
自分の立場をわきまえていたおじさんに起きた異変
主人公は、自分が周囲からどのように見られているのかを、嫌というほど理解している中年男性です。
決して目立つ容姿ではなく、女性から好意を寄せられるような経験とも無縁。だからこそ、普段から余計な誤解を招かないように気を配り、他人との距離を慎重に保ちながら暮らしていました。
特に女性に対しては、必要以上に近づかないことを徹底しています。本人に悪気がなくても、相手を不安にさせてしまう可能性があると考え、できるだけ接点を持たないようにしていたのです。
そんな彼にとって、何事もなく一日を終えられることこそが、平穏な生活を守るための大切な条件でした。
ところが、ある日を境に、その当たり前だった生活に説明のつかない変化が現れます。
これまで自分から距離を置いていたはずの女性たちが、なぜか向こうから近づいてくるようになったのです。
最初は、見知らぬ女性から突然声をかけられる程度の出来事でした。ところが、電車に乗れば不自然なほど距離を縮められ、普段の生活でも誰かの視線を感じるなど、偶然では片づけられない状況が続いていきます。
もちろん、主人公には女性たちの態度が変わった理由など分かりません。これまでと同じように暮らしているだけなのに、周囲の反応だけが明らかにおかしくなっているのですから、戸惑うのも無理はありません。
しかも、彼が不思議に思っている間にも、不可解な出来事は少しずつ増えていきます。
自分に何か特別な魅力が備わったのか、それとも単に奇妙な偶然が重なっているだけなのか。主人公自身にも答えが見つからないまま、これまで築いてきた人との距離感が通用しなくなっていきます。
本作で印象的なのは、そんな変化を主人公が素直に喜ぶわけではないところです。
むしろ、長年にわたって目立たないように生きてきた男性だからこそ、突然向けられる関心にどう対応すればよいのか分からず、困惑ばかりが大きくなっていきます。
そして、最初は些細な違和感だった出来事が、やがて彼の想像を超える騒動へと発展していくことになります。
挨拶から始まった違和感が、予想外の騒動へ発展
女性たちの態度が変わったとはいえ、最初から大きな事件が起きたわけではありません。主人公が感じていたのは、これまでの生活では考えられなかったような、小さな違和感の積み重ねでした。
例えば、見知らぬ女性から突然挨拶をされたり、電車の中で不自然なほど近くに立たれたりと、ひとつひとつを取り出せば偶然とも考えられる出来事ばかりです。
ただ、主人公にとっては、それだけでも十分に奇妙な変化でした。
何しろ、それまでは自分から距離を取ることを心がけていた相手が、今度は向こうから接近してくるのです。しかも、一度きりではなく、場所や状況を変えながら似たような出来事が繰り返されるため、次第に無視できなくなっていきます。
さらに不可解なのは、女性たちの関心が、外出先での偶然の接触だけにとどまらなくなっていくところです。
普段の生活を誰かに見られているような気配があったかと思えば、自宅周辺でも説明のつかない出来事が起こり始めます。身近な持ち物に異変が生じたり、突然手紙を渡されたりと、主人公が落ち着いて過ごせる場所は少しずつ失われていくのです。
なかでも印象的なのが、好意を伝える手紙の存在でした。
一般的な恋文であれば、受け取った相手も多少は嬉しく感じるかもしれません。しかし、本作に登場する手紙は、書き手の感情があまりにも強く、主人公が素直に喜べるようなものではありません。
相手が自分に関心を持っていることは伝わってくるものの、その熱量が常識的な範囲を超えているため、むしろ何を考えているのか分からない不気味さが残ります。
こうした出来事が重なるにつれて、主人公を取り巻く状況は、単に女性から声をかけられるという話では済まなくなっていきます。
それまで他人との距離を慎重に保ってきた男性が、今度は自分の意思とは関係なく、相手の行動に振り回される立場になってしまうのです。
しかも、女性たちの行動には共通する理由があるようにも見える一方で、主人公自身はその正体を理解できていません。何がきっかけで状況が変わったのか分からないまま、次々と新しい出来事に直面することになります。
普通なら困惑したり、警戒したりするような状況を、極端な設定と大げさなリアクションによって描いているところも、本作の独特な持ち味です。
最初は些細な挨拶だったはずの変化が、いつの間にか自宅での平穏まで脅かす騒動へと発展している。その展開の振れ幅にこそ、主人公が巻き込まれる異色コメディとしての面白さが表れています。
女性たちの積極性に振り回される主人公の反応が面白い
これほど不可解な出来事が続けば、普通は自分の身に何が起きているのかを確かめたくなるものです。しかし、主人公の場合は、そもそも女性から積極的に関心を向けられること自体が想定外であり、状況を理解する以前に戸惑いが先に立ってしまいます。
もともと彼は、自分の容姿が他人に与える印象を気にして、必要以上に女性へ近づかないようにしてきた男性です。それなのに、今では相手の方から距離を縮めてくるのですから、これまで身につけてきた振る舞い方がまったく役に立ちません。
特に印象的なのは、主人公が何か特別な行動を起こしたわけでもないのに、周囲の女性たちが次々と予想外の行動を見せるところです。
ある女性は突然声をかけてきたかと思えば、別の女性は主人公の生活にまで関心を示します。さらには、強い感情を込めた手紙を渡されるなど、本人の理解が追いつかない出来事が重なっていくのです。
こうした状況だけを聞けば、女性から人気を集める男性を描いた作品のようにも思えます。しかし、実際には主人公が自信満々に振る舞う場面よりも、相手の行動に驚き、どう対応すればよいのか分からなくなる姿の方が目立ちます。
例えば、電車の中では周囲の乗客に気を配りながら過ごしているにもかかわらず、思いがけない出来事に巻き込まれてしまいます。自分から騒ぎを起こしたくないという気持ちが強いだけに、突然の状況変化に対する困惑も大きくなるわけです。
さらに、外出先だけでなく自宅周辺でも奇妙な出来事が起こるようになると、主人公にとっては安心できる場所さえ少なくなっていきます。
本来なら、家に帰れば周囲の視線を気にせず落ち着いて過ごせるはずです。ところが、女性たちの関心はそんな主人公の事情などお構いなしに広がっていくため、本人が望んでいた静かな暮らしとは正反対の状況になってしまいます。
ここで面白いのが、主人公と女性たちの間にある、あまりにも大きな温度差です。
主人公は目立たず平穏に暮らしたいと考えているのに、周囲の女性たちは自分の感情に従って行動し、その結果として彼の生活が振り回されていきます。どちらか一方の行動だけを見れば理解できる部分があっても、両者が顔を合わせることで、思いもよらない騒動へ発展してしまうのです。
しかも、主人公は突然変わった周囲の反応について、明確な理由を知らされているわけではありません。だからこそ、女性たちが次に何をするのか予測できず、読者も主人公と同じように、次々と起こる出来事の意外性を感じられる構成になっています。
女性から関心を向けられることが、必ずしも本人にとって歓迎できる出来事になるとは限らない。そんな皮肉を極端な設定で描き、主人公の困惑を笑いに変えているところが、本作の異色コメディとしての特徴です。
平穏を望む主人公と、その願いを次々に打ち砕いていく周囲の行動。この噛み合わない関係が、物語を予想外の方向へ動かしていきます。
常識が逆転する展開と、先の読めないコメディが魅力
本作の面白さを考えるうえで欠かせないのが、主人公の置かれた立場そのものが、一般的な恋愛コメディとは大きく異なっていることです。
普通なら、女性から好意を寄せられる男性は、自分の魅力に気づいたり、相手との関係を深めようとしたりするものです。しかし、本作の主人公には、そうした積極性がほとんどありません。
むしろ、女性と必要以上に関わらないことを心がけてきた人物だからこそ、突然向けられる関心に戸惑い、これまでの生活をどう守ればよいのか分からなくなってしまいます。
そんな主人公とは対照的に、周囲の女性たちは驚くほど大胆な行動を見せます。
最初は挨拶や何気ない接近だったものが、いつの間にか主人公の私生活にまで影響を及ぼすようになり、本人が何もしていなくても新しい騒動が生まれてしまうのです。
特に興味深いのは、主人公にとって歓迎できるとは限らない出来事が、周囲の女性たちにとっては強い関心を示す行動になっている点でしょう。
相手に悪意があるのか、それとも純粋な好意から行動しているのか。主人公にはその判断さえ難しく、普段なら当たり前に通用する人との距離感が、まったく役に立たなくなっています。
さらに、本作では出来事の規模が大きくなるにつれて、主人公の反応にも変化が生まれていきます。
最初は何かの間違いだと考えられた状況も、同じような出来事が何度も続けば、さすがに偶然とは思えません。ところが、異変の理由を理解できないまま次の騒動が起こるため、落ち着いて状況を整理する余裕すらなくなっていくのです。
ここには、一般的な恋愛作品で描かれる「相手の気持ちを知りたい」という関心とは、少し違った面白さがあります。
主人公が気にしているのは、相手が自分をどう思っているのかという問題だけではありません。そもそも、なぜ自分のような男性に女性たちが近づいてくるのか、その根本的な理由さえ分からない状態なのです。
そして、周囲の女性たちが予想外の行動を取るたびに、主人公が長年守ってきた常識との食い違いが大きくなっていきます。
もちろん、作中で描かれる行動のなかには、現実なら笑い事では済まされないものもあります。それでも、極端な状況に置かれた主人公の困惑を誇張して描くことで、普通の恋愛コメディとは異なるブラックユーモアが生まれているのです。
何より、主人公自身が状況を主導しているわけではないため、次に何が起こるのかを予測しにくいところも特徴的です。
これまでなら女性との接点を避けていれば平穏に暮らせたはずなのに、今ではどれだけ慎重に行動しても、向こうから予想外の出来事が舞い込んできます。
自分の意思で距離を取ることさえ難しくなった主人公は、この不可解な状況とどう向き合っていくのか。
女性たちの行動が常識から外れていくほど、主人公が大切にしてきた平穏な暮らしとの落差も際立っていきます。そんな極端な対比が、最後まで何が起こるか分からない本作独特のコメディを形作っています。
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