「ドラクエは海外で売れない」という話を、一度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
実際、世界的な知名度という点では『ファイナルファンタジー』や『モンスターハンター』と比べて見劣りする印象があり、「日本では国民的RPGなのに、なぜ海外では苦戦しているのだろう」と疑問に思う人も少なくありません。
確かに、歴代シリーズの海外売上を見ると、FFや近年世界的人気を獲得した『ペルソナ』シリーズ、『モンスターハンター』シリーズと比べて海外市場の割合は低い傾向があります。そのため、「ドラクエは海外では人気がない」というイメージが広く定着しているのも事実です。
もっとも、「海外で売れない」という言葉だけで片付けてしまうのは少し乱暴です。シリーズ初期には海外進出そのものが遅れていた時代があり、マーケティングやローカライズ、さらには作品づくりの思想まで、いくつもの要因が積み重なった結果として現在のイメージが形成されました。一方で、近年発売された『ドラゴンクエストXI』では海外売上も大きく伸びており、状況は少しずつ変わり始めています。
そこで本記事では、ドラクエが海外で売れないと言われる理由を歴史的な背景から紐解きながら、ライバルであるFFとの決定的な違いにも触れていきます。そして最後には、「ドラクエは本当に海外で通用しない作品なのか」という疑問についても整理していきます。
ドラクエは本当に海外で売れていないのか
「ドラクエは海外では売れない」と言われることがありますが、まず整理しておきたいのは、この言葉は半分正しく、半分は誤解でもあるという点です。
確かに世界全体の売上を見ると、ドラクエは海外市場で圧倒的な成功を収めたタイトルとは言えません。とくにライバルである『ファイナルファンタジー』は、PlayStation時代から海外市場を積極的に開拓したことで、日本を代表するRPGとして世界中に認知されるようになりました。PS版『FFVII』は全世界で約1,500万本を販売し、その多くを海外市場が占めています。一方で、『ドラゴンクエストVIII』の海外出荷本数は約130万本、『ドラゴンクエストIX』も世界累計約550万本のうち、海外販売は100万本余りとされており、両シリーズには大きな差が存在していました。
さらに近年は、同じ日本製RPGでも海外人気を大きく伸ばした作品が増えています。『ペルソナ』シリーズは累計販売本数の多くを海外市場が占め、『モンスターハンター』シリーズに至っては海外売上が全体の約8割とも言われるほどです。こうした作品と比較される機会が多いことも、「ドラクエは海外では人気がない」という印象を強めた理由の一つと言えるでしょう。
ただし、ここで「だからドラクエは海外では売れない作品なのだ」と結論付けてしまうのは少し早計です。実際にはシリーズを重ねるごとに海外での認知度は少しずつ高まり、とくに『ドラゴンクエストXI』では全世界900万本以上を販売し、そのうち約400万本近くが海外で売れたと紹介されています。初期作品と比べると、海外ユーザーの割合は確実に増えており、「まったく受け入れられていない」という状況ではなくなっています。
つまり、「海外で売れない」というよりも、「海外で成功するまでに非常に長い時間がかかったシリーズ」と表現した方が実態に近いのかもしれません。そして、その背景には単純なゲームの面白さだけでは説明できない、歴史的な事情や市場戦略の違いが存在していました。
まずは、その原点とも言える海外進出の始まりから見ていきましょう。
理由① 海外進出のスタートが大きく遅れた
ドラクエが海外で苦戦した理由として、まず知っておきたいのが「海外へ挑戦したタイミング」です。
現在では世界中で知られる人気シリーズとなりましたが、実はドラクエは海外市場への本格的な展開で大きく出遅れていました。そして、このスタートの遅れが、その後何十年にもわたってシリーズの認知度へ影響を与えることになります。
象徴的なのが、シリーズ名です。
初代『ドラゴンクエスト』が北米で発売された際、「Dragon Quest」という名称はすでに別作品の商標として登録されていました。そのため、海外では『Dragon Warrior』というタイトルで発売されることになります。
日本では「ドラゴンクエスト」という名前だけで作品の魅力が伝わるほど知名度を獲得していましたが、海外ではブランドを一から築かなければならない状況だったわけです。
もっとも、不利だったのは名前だけではありません。
1986年に初代『ドラゴンクエスト』が発売された当時、日本ではRPGというジャンル自体がまだ一般的ではありませんでした。そのため、堀井雄二氏は難解だった海外製RPGの面白さを残しつつ、誰でも遊べるゲームへと作り直します。
コマンドを選ぶだけで遊べる戦闘、分かりやすいストーリー、親しみやすいキャラクター、迷わず冒険できるゲームデザイン。現在では当たり前に感じられる仕組みも、当時としては非常に革新的でした。
その結果、ドラクエは「RPGは難しい」というイメージを覆し、日本中へRPGというジャンルを広める存在になっていきます。だからこそ、日本では国民的RPGとして圧倒的な支持を集めることができました。
ところが、海外では事情がまったく異なります。
北米ではすでに『Wizardry』や『Ultima』といったRPGが人気を集めており、RPGというジャンルはゲーム好きのコアユーザーが楽しむ作品として定着していました。
つまり、日本では「初心者でも遊びやすい」という強みだった部分が、海外では「シンプルすぎるゲーム」と受け止められる可能性もあったのです。
もちろん、ドラクエの完成度が低かったという話ではありません。
むしろ、遊びやすさを追求したゲームデザインこそ、日本で歴史的なヒットを生み出した最大の理由でした。ただ、その魅力を最も評価してくれる市場が日本だったというだけであり、RPG文化がすでに成熟していた海外とは求められるものが少し違っていたと言えます。
こうして振り返ると、ドラクエは「海外で売れなかった作品」というより、「日本で成功した理由が、そのまま海外では武器になりにくかった作品」と考えた方が実態に近いのかもしれません。
そして、このスタート時点で生まれた差は、その後の海外展開にも少なからず影響を与えていきます。特に大きかったのが、作品の魅力をどう伝えるかというマーケティング戦略でした。
理由② 初期のマーケティングで世界観を伝えられなかった
海外進出のタイミングが不利だったことに加えて、もう一つ大きかったのが「作品の魅力をどう伝えるか」というマーケティングの問題です。
今でこそドラクエといえば、鳥山明氏が描くキャラクターやスライムを思い浮かべる人がほとんどでしょう。丸みを帯びた親しみやすいデザインは、シリーズの象徴であり、他のRPGにはない個性として世界中のファンに愛されています。
ところが、初期の海外展開では、その個性が十分に生かされませんでした。
当時の海外版パッケージでは、「日本らしいイラストでは現地のユーザーに受け入れられない」という判断から、鳥山明氏のイラストではなく、海外ファンタジー作品を思わせるリアル調のデザインへ差し替えられていたのです。
今の視点から見ると少し意外な判断に思えるかもしれません。
しかし、1980年代後半は『ドラゴンボール』が現在ほど世界的な知名度を獲得していた時代ではありません。当時の販売担当者からすれば、現地ユーザーに馴染みのあるビジュアルへ変更した方が売れると考えるのも、決して不自然ではなかったと言えます。
ただ、その結果として失われてしまったものもありました。
ドラクエ最大の魅力は、単なる王道ファンタジーではなく、「鳥山明氏の世界観で冒険できるRPG」という唯一無二の個性です。スライム一匹を見てもすぐにドラクエだと分かるほどブランドが確立されている現在から振り返ると、この特徴を前面に出せなかったことは非常にもったいない出来事だったように感じます。
もちろん、このような判断をしていたのはドラクエだけではありません。
当時は日本のゲームを海外へ展開する際、パッケージイラストを現地向けに描き直すことは珍しいことではありませんでした。『ストリートファイターII』や『ロックマン』など、現在では世界的人気シリーズとなっている作品でも、日本版とはまったく異なるデザインが採用された例があります。
つまり、それだけ「日本らしいデザインは海外では受け入れられない」という考え方が業界全体に存在していたわけです。
さらに、マーケティング全体を見ても、ドラクエは海外へ積極的に投資していたシリーズとは言えませんでした。
国内では発売日に行列ができるほど圧倒的な人気を誇り、新作を出せば確実に売れる市場がすでに存在していました。その状況で、未知数だった海外市場へ莫大な広告費を投じる理由は、当時のエニックスにはあまりなかったのでしょう。
経営判断として見れば、それは十分に理解できる選択です。
一方で、その頃のスクウェアは世界市場を見据え、積極的な投資を進めていました。
同じJRPGでありながら、海外での知名度に大きな差が生まれた背景には、このマーケティング戦略の違いも少なからず影響しています。そして、その差を決定づけたのが、『ファイナルファンタジーVII』を中心とした世界市場への本格的な挑戦でした。
理由③ FFは世界市場を狙った戦略を取っていた
ドラクエが国内市場を中心に人気を高めていく一方で、ライバルだったファイナルファンタジーは、海外市場へ積極的に挑戦する道を選びました。
この判断が、現在まで続く両シリーズの知名度や売上の差を生み出した大きな要因の一つになっています。
もちろん、FFも最初から世界的人気を獲得していたわけではありません。
北米で一定の評価を得た『ファイナルファンタジーVI』を経て、本格的に海外市場へ攻勢をかけたのが1997年発売の『ファイナルファンタジーVII』でした。現在でもシリーズを代表する作品として語られることが多い本作ですが、その成功はゲーム内容だけでなく、販売戦略も大きく関係しています。
まず印象的なのが、海外展開までのスピードです。
国内版は1997年1月に発売され、その約7か月後には北米版が発売されています。今では世界同時発売が当たり前になりつつありますが、当時としては非常に早い展開であり、日本だけで終わらせるのではなく、最初から世界市場を意識していたことが分かります。
さらに、FFには大きな追い風もありました。
当時、PlayStationを世界へ普及させたいソニーは、ハードの魅力を象徴するキラータイトルを必要としていました。その役割を担ったのが『FFVII』です。
ソニーは北米や欧州での販売・宣伝を強力にバックアップし、スクウェアもそれに応える形で世界規模のプロモーションを展開していきます。
その広告規模は、現在のAAAタイトルと比べても驚くほど大掛かりでした。
海外向けには約4,000万ドル、日本円で約50億円ものマーケティング費用が投入され、テレビCMだけではなく、コミック広告や企業とのタイアップ、体験版ディスクの配布まで行われています。
つまり、「ゲームが面白いから売れた」のではなく、「世界中へ面白さを届けるための仕組み」まで用意されていたということです。
もちろん、作品自体も海外市場との相性が抜群でした。
当時として最先端だった3DCG、映画のような演出、近未来的な世界観は、言葉が分からなくても画面を見るだけで作品の魅力が伝わります。
「こんなゲームを遊んでみたい。」
そう思わせる力が『FFVII』にはあり、その結果として全世界1,500万本以上を販売する歴史的なヒット作になりました。JRPGというジャンルが世界中へ広まった背景には、この作品の存在が大きく影響しています。
一方、その頃のドラクエは対照的な状況でした。
『ドラゴンクエストVII』は開発の長期化によって発売が遅れ、海外での宣伝もE3などゲームイベントや専門メディアが中心です。販売地域も北米が主体で、欧州では発売されませんでした。
FFが新しいユーザーを積極的に獲得しようとしていたのに対し、ドラクエは既存ファンへ届ける色合いが強く、海外でブランドを広げるという点では大きな差が生まれていたのです。
もっとも、この違いはマーケティングだけでは説明できません。
ドラクエには、シリーズの魅力そのものが海外展開を難しくしてしまう、もう一つの大きな課題がありました。
理由④ ドラクエは翻訳とローカライズの難易度が高すぎた
FFとドラクエの差は、マーケティングだけでは説明しきれません。
シリーズそのものが持つ特徴も、海外展開の難しさに大きく関係していました。
その代表例が、ローカライズです。
ゲームを海外で販売する際は、日本語を英語へ翻訳するだけでは終わりません。登場人物の口調や文化的な表現、言葉遊びまで含めて、その国のプレイヤーが違和感なく楽しめる形へ作り直す必要があります。
どのゲームでも簡単な作業ではありませんが、ドラクエはその中でも特に難易度が高い作品でした。
例えば『ドラゴンクエストVII』では、膨大なシナリオを翻訳するために20人の翻訳者と5人のコピーエディターが携わったと言われています。それだけの人数を必要としたことからも、シリーズが抱えるテキスト量の多さが伝わってきます。
実際、ドラクエを遊んだことがある人なら、この特徴にはすぐ思い当たるはずです。
町へ着けば住民一人ひとりに話しかけたくなりますし、物語が進めば同じ人物でもセリフが変わります。その土地ならではの言い回しや何気ない会話から世界観を感じ取り、「この世界で暮らしている人たち」を知ること自体が、ドラクエの面白さになっています。
つまり、ドラクエはストーリーを追うRPGというだけではありません。
会話を通じて世界を旅するRPGでもあり、その魅力を別の言語へそのまま移し替えることは、想像以上に難しい作業だったのです。
しかも、初期の海外版では翻訳の質にも課題がありました。
ドラクエの魅力である会話パートが十分に再現されず、本来ならクスッと笑える場面や印象に残るやり取りも、海外では伝わりきらなかった可能性が指摘されています。物語の面白さを支える重要な要素が十分に伝わらなければ、作品全体の評価にも少なからず影響してしまいます。
さらに、文化の違いも見逃せません。
日本では漫画や小説を読む文化が根付いており、ゲームでも大量のテキストを読むことに抵抗を感じる人はそれほど多くありません。
一方、海外では映像や音声を重視する傾向が比較的強く、文字を大量に読ませるゲームは日本ほど一般的ではありませんでした。もちろん国や地域によって差はありますが、ドラクエのように会話を積み重ねながら世界を楽しむ作品は、それだけでハードルが高くなってしまう側面もあったのです。
こうした背景を考えると、ドラクエが長らくボイスを重視してこなかったことも無関係ではありません。
シリーズで本格的にボイスが導入されたのは、2005年発売の海外版『ドラゴンクエストVIII』でした。一方、FFは2001年発売の『ファイナルファンタジーX』でキャラクターボイスを本格的に採用しています。映像と音声によって物語を伝えやすいFFに対し、ドラクエはテキストを読む楽しさを大切にしてきました。この違いも、海外市場では少なからず影響したと考えられます。
もちろん、このスタイルが間違っていたわけではありません。
むしろ、日本で長年愛され続けてきた理由の一つは、この「読む楽しさ」にあります。町の人との何気ない会話を大切にし、プレイヤー自身の想像力で世界を広げていく体験は、ドラクエならではの魅力と言っていいでしょう。
ただ、その魅力が海外ではそのまま伝わりにくかったことも事実です。
だからこそ、「海外で売れなかった」のではなく、「海外へ届ける難易度が極めて高かったシリーズ」と考えた方が、ドラクエという作品をより正確に捉えられるのではないでしょうか。
理由⑤ 日本市場を最優先に作られてきた
ここまでの内容を振り返ると、ドラクエが海外で苦戦した理由は、海外進出の遅れやマーケティング、ローカライズなど、さまざまな要素が積み重なった結果だったことが見えてきます。
ただ、その根本にはもう一つ、大きな理由があります。
それは、ドラクエというシリーズが最初から海外市場を最優先に作られてきた作品ではないということです。
この考え方は、シリーズの生みの親である堀井雄二氏の発言からもうかがえます。
堀井氏は過去のインタビューや講演の中で、「海外向けにストーリーを作ることは意識していない」「まずは日本で面白い作品を作り、その上で海外の人にも遊んでもらえればいい」という趣旨の考えを語っています。さらに2025年のインタビューでも、「面白いものは世界共通」という言葉を残しており、一貫して日本のプレイヤーを第一に考えた作品づくりを続けてきました。
この姿勢は、シリーズ全体にも色濃く表れています。
例えば、ドラクエはナンバリング作品が発売されても、ゲームの根幹が大きく変わることはほとんどありません。
コマンドバトルを中心とした戦闘、町で情報を集めながら冒険を進めるゲームデザイン、レベルを上げて少しずつ強くなっていく成長システム。新作ごとに細かな進化はありますが、「ドラクエらしさ」は決して崩さないよう作られています。
一方のFFは、シリーズを重ねるたびに戦闘システムや世界観を大胆に変化させ、常に新しい体験を提供することを重視してきました。どちらが優れているという話ではなく、目指している方向そのものが違っていたのです。
だからこそ、ドラクエには独特の安心感があります。
スライムを見れば「ドラクエが始まった」と感じますし、宿屋に泊まり、教会でセーブをして、新しい町で住民の話を聞く。その一連の流れを楽しみにしているファンも多いはずです。
新作が発売されるたびにまったく別のゲームになることを期待している人は、それほど多くありません。
「いつものドラクエだけれど、新しい発見もある。」
この絶妙なバランスこそが、40年近くシリーズが愛され続けてきた理由と言えるでしょう。
もちろん、海外市場を考えれば、より大胆な変化を取り入れた方が売上は伸びる可能性があります。
実際、『ドラゴンクエストXII』が初めて発表された際は、ダークな世界観や「大人向けのドラクエ」というコンセプトから、「海外市場を強く意識した作品になるのではないか」と予想する声も少なくありませんでした。
しかし、その後公開された映像を見る限り、作品全体の雰囲気は従来のドラクエらしさを重視する方向へ軌道修正されたようにも感じられます。もしそうだとすれば、それは海外展開を諦めたというより、「ドラクエとしての軸を守る」という判断だったのではないでしょうか。
個人的にも、この考え方には共感する部分があります。
世界市場を意識することはもちろん大切です。しかし、それだけを追い求めた結果、本来の魅力を失ってしまえば、長年支えてきたファンとの距離も広がってしまいます。
ドラクエは海外向けに形を変えることで支持されてきたシリーズではありません。
日本で「面白い」と評価された作品を丁寧に磨き続けた結果、その魅力が少しずつ海外にも伝わり始めたシリーズです。
だからこそ、「海外で売れない」という見方だけでは、この作品の本質は語れません。
むしろ近年は、その本質を変えずに世界で評価を高め始めていることこそ、ドラクエというシリーズの大きな可能性なのかもしれません。
それでもドラクエは海外で少しずつ評価を高めている
ここまで読むと、「やはりドラクエは海外では成功できなかったシリーズなのか」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、現在の状況は少しずつ変わり始めています。
その転機となったのが、『ドラゴンクエストXI』です。
本作は全世界で900万本以上を販売し、そのうち約400万本近くを海外市場が占めています。これまでのシリーズと比べても海外比率は大きく伸びており、『ドラゴンクエストVIII』や『IX』の時代とは明らかに状況が変わってきました。
もちろん、FFのように海外売上がシリーズ全体の中心を占める作品と比べれば、まだ差があります。
それでも、「ドラクエは海外では通用しない」という見方は、もはや現在の状況には当てはまりません。
むしろ、時間はかかったものの、本来の魅力がようやく世界へ伝わり始めたシリーズと考えた方が実態に近いように感じます。
思い返せば、これまで紹介してきた課題の多くは、ゲームそのものの出来とは別の部分にありました。
海外進出のタイミング、マーケティングへの投資、ローカライズの難しさ、日本市場を優先してきた開発方針。こうした要素が何十年も積み重なった結果、「海外では売れない」というイメージが定着していったわけです。
言い換えれば、作品の面白さが評価されなかったというより、その面白さを十分に届けられなかった時代が長く続いていたとも言えます。
現在は、その状況も大きく変化しました。
ローカライズ技術は飛躍的に向上し、多言語対応も以前ほど珍しいものではありません。シリーズにもボイスが導入され、映像表現も世界基準へ近づいています。さらに、SNSや動画配信サービスの普及によって、日本で話題になったゲームが世界中へ一気に広がる時代になりました。
1980年代や1990年代には存在しなかった環境が、今では当たり前になっています。
だからこそ、『ドラゴンクエストXI』の成功は単なるヒット作というだけではなく、「ドラクエらしさは海外でも十分に評価される」ということを証明した作品だったと言えるのではないでしょうか。
そして、その流れをさらに加速させる可能性を秘めているのが、現在開発が進められている『ドラゴンクエストXII』です。
シリーズが積み重ねてきた伝統を守りながら、世界中のプレイヤーへどのような冒険を届けてくれるのか。その挑戦には、これまで以上に大きな注目が集まっています。
ドラクエ12は海外人気を変える転換点になるのか
ここまで見てきたように、ドラクエが海外で苦戦してきた背景には、ゲーム内容だけでは説明できないさまざまな要因がありました。
だからこそ、多くのファンが注目しているのが『ドラゴンクエストXII』です。
本作は単なるシリーズ最新作ではありません。
これまで積み重ねてきた「ドラクエらしさ」を守りながら、世界市場でどこまで存在感を高められるのか。その答えを示す作品として、大きな期待が寄せられています。
特に印象的だったのは、2021年に公開されたティザー映像です。
従来のシリーズとは雰囲気が大きく異なるダークファンタジー路線が採用され、「大人向けのドラクエ」「選択が物語に影響する」といったキーワードも発表されました。
その内容から、「海外市場を強く意識した作品になるのではないか」と考えた人も少なくありませんでした。実際、海外で人気の高いダークファンタジー作品を思わせる空気感があり、シリーズとして大きな転換期を迎えるような印象を受けた方も多かったはずです。
しかし、その後公開された映像を見る限り、作品全体の方向性は少し変化したようにも感じられます。
以前よりも色彩は明るくなり、世界観も従来のドラクエらしさを感じさせる雰囲気へ近づいていました。開発途中で方向性を見直した可能性も指摘されており、海外市場だけを追いかけるのではなく、シリーズ本来の魅力を改めて大切にする判断があったのかもしれません。
もちろん、これは決して消極的な選択ではないと思います。
ゲーム業界を見渡すと、世界市場を強く意識するあまり、本来の個性を失ってしまったシリーズは決して珍しくありません。
一方で、ドラクエは40年近くにわたり、「ドラクエだから遊びたい」と思ってもらえるブランドを築いてきました。
スライムを見れば安心感を覚え、教会でセーブをし、町の人々と会話を重ねながら少しずつ冒険を進めていく。その体験は、他のRPGでは簡単に代わりを務められないほど独自性があります。
だからこそ、海外で評価されるためにドラクエそのものを変えてしまうよりも、ドラクエらしさを磨き続け、その魅力を世界へ届ける方が、このシリーズには合っているように感じます。
実際、『ドラゴンクエストXI』は、その考え方が間違っていなかったことを証明した作品でした。
シリーズの根幹は大きく変えず、現代的なグラフィックや演出、丁寧なローカライズによって海外でも高い評価を獲得しています。
つまり、海外で成功するために必要なのは、「ドラクエではない何か」を作ることではなく、「ドラクエらしい面白さ」を今の時代に合わせて世界へ届けることなのかもしれません。
『ドラゴンクエストXII』がどのような作品になるのかは、まだ多くの部分が明らかになっていません。
それでも一つだけ確かなのは、この作品がシリーズの未来を左右する重要な一本になるということです。
40年近く積み重ねてきた歴史と、日本で育まれてきたドラクエらしさ。その価値が世界中のプレイヤーへどこまで届くのか、多くのファンが期待を寄せる理由は、まさにそこにあるのではないでしょうか。
まとめ
ここまで見てきたように、「ドラクエは海外で売れない」と言われる背景には、一つの理由だけでは語れない歴史があります。
海外進出のタイミングが遅れたこと、日本と海外でRPG市場の成熟度が大きく異なっていたこと、初期のマーケティングでシリーズの個性を十分に伝えられなかったこと、そして膨大なテキスト量によるローカライズの難しさ。さらに、日本市場を第一に考えた作品づくりという開発方針も重なり、現在まで続くイメージが形作られていきました。
つまり、「ドラクエだから海外で売れなかった」のではなく、「海外で成功しにくい条件がいくつも重なっていたシリーズ」と考えた方が、実態に近いのではないでしょうか。
一方で、その状況は確実に変わり始めています。
『ドラゴンクエストXI』は海外でも高い評価を獲得し、シリーズとして過去最大規模の海外販売本数を記録しました。長年積み重ねてきたドラクエらしさが、ようやく世界中のプレイヤーにも届き始めたと考えると、この変化は決して小さなものではありません。
個人的に興味深いと感じたのは、ドラクエが世界で評価され始めた理由です。
海外市場へ合わせてシリーズの方向性を大きく変えたからではなく、日本で長年愛されてきた面白さを守り続けた結果、その魅力が少しずつ世界へ広がっていったようにも見えます。
ゲーム業界では、「海外で売れるゲームを作る」という考え方が語られることも少なくありません。
もちろん、それは重要な視点です。しかし、本当に世界中で支持される作品とは、それぞれの国や開発者にしか作れない個性を持ったゲームなのではないかと感じます。
ドラクエは、まさにその代表例です。
日本で生まれ、日本のプレイヤーとともに育ち、日本らしいRPGとして進化を続けてきたからこそ、40年近く経った今でも多くのファンを惹きつけています。
そして、その魅力が国境を越えて評価され始めた今、シリーズは新たな時代を迎えようとしています。
『ドラゴンクエストXII』が、その流れをさらに大きなものにできるのか。
ドラクエというブランドが世界でどのような存在になっていくのか、一人のゲームファンとして、その挑戦を楽しみに見届けたいと思います。
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