『スーパーマリオ64』を遊んだことがある人なら、ジャンプを使わずにクリアするなんて、まず無理だと思うはずです。そもそもマリオにとってジャンプは、穴を越える、高い場所へ登る、敵を踏むといった基本動作そのものですから、「Aボタンを押さない」という縛りは、少し難しくなるという程度の話ではありません。
ところが2024年、その常識を本当に壊してしまったプレイヤーが現れました。Aボタンを一度も押さずに『スーパーマリオ64』をクリアし、記録された時間は86時間48分30秒。約3日半という途方もない時間をかけて、ついに「ジャンプ禁止クリア」が現実のものになったわけです。
ただ、この記録の面白さは「一人の超人が無茶な縛りプレイを成功させた」という部分だけではありません。そこに至るまでには、世界中のプレイヤーが何年もかけてAボタンの使用回数を1回ずつ削り続けてきた歴史があり、最終的な0回クリアは、およそ11年にわたる試行錯誤の積み重ねの先にありました。
しかも、その攻略法を追っていくと話はどんどんおかしくなっていきます。「Aボタン0.5回」という聞き慣れない考え方が登場したかと思えば、12時間走り続けて速度を蓄積したり、最後には約78時間ひたすら待つことで突破口を作ったりと、普通のゲーム攻略とはまるで別世界です。
では、なぜそこまでしなければAボタン0回クリアはできなかったのか。そして、7年以上誰にも破れなかった「最後の1回」は、どうやって消されたのか。今回は、『スーパーマリオ64』で実際に達成されたジャンプ禁止クリアの中身を、そこに至るまでの流れとあわせて見ていきます。
マリオ64で「ジャンプ禁止」――そもそも何を競っているのか
前提として、この挑戦は一般的なRTAとは少し考え方が違います。RTAと聞くと「どれだけ早くエンディングまで到達できるか」を競うものを想像しますが、Aボタン禁止チャレンジで突き詰められてきたのはタイムではなく、クリアまでにAボタンを何回押したかという数字でした。
ルール自体は意外なほど単純で、ゲームクリアに必要な70枚のスターを集めながら、Aボタンの使用回数を可能な限り減らしていくというものです。誰かが新しい攻略法を発見して1回減らせば、今度は別のプレイヤーがさらに削れないかを考える。そんな形で攻略法が持ち寄られ、もともとは仲間内で始まった遊びが、少しずつ記録を競うものへ変わっていきました。
ただ、『スーパーマリオ64』でこの条件を課すのは、一般的な縛りプレイとは事情が違います。本作のAボタンにはジャンプが割り当てられているため、穴を飛び越えるときはもちろん、高い場所へ登るときにも使いますし、敵を踏みつける場合にも必要になります。つまり「便利なアクションを一つ封印する」というより、マリオというゲームを成立させている基本動作そのものを使わないという条件に近いわけです。
それでもプレイヤーたちは、「ここだけはジャンプしないと無理」で終わらせませんでした。坂や足場の性質を利用できないか、通常とは違うルートを通れないか、ゲーム内部の挙動まで利用すればAボタンを押さずに済むのではないか。1回の入力を減らすために、普通にクリアするだけなら考える必要もないところまで調べ始めたのです。
そして、この競技の少し変わったところは、100回を10回にすることも、1回を0回にすることも、同じ「1回ずつ減らしていく」という研究の延長線上にある点です。最初から誰かが86時間かけてAボタン0回クリアに挑んだわけではなく、小さな攻略法が積み重なった結果として、いつしか「本当に0回まで行けるのではないか」というところまで到達しました。
ここから『マリオ64』の攻略は、普通に遊んでいるだけではまず目にすることのない領域へ入っていきます。Aボタンを何百回も使って当たり前だったゲームで、その数字がどのように削られていったのか。0回へ向かう長い研究の歴史は、ここから一気に動き始めます。
208回から43回へ――世界中のプレイヤーが始めた「Aボタン削減」
Aボタンをできるだけ押さずにクリアするという遊び自体は、最初から大勢のプレイヤーが参加する競技だったわけではありません。始まりはもっと小さなもので、「Aボタンを押さずにどこまで進めるのか」という問いかけから攻略法が持ち寄られ、やがて誰かが1回減らせば記録が更新される専用ページまで作られるようになりました。
そんな流れが大きく変わったのが2013年です。この頃には先人たちの研究によって、普通に遊べば何度となく使うAボタンが、すでに208回まで減らされていました。これだけでも十分に突き詰められているように見えますが、驚くのはむしろここからで、その後わずか1年半ほどで必要な回数は43回にまで削られていきます。
208回から43回ですから、単純に考えて165回もの入力が消えたことになります。当然ながら、同じ攻略を少し上手にこなせば達成できるような差ではありません。「この場所ではAボタンが必要」という、それまで当たり前だと思われていた場面を一つずつ疑い、別の移動方法やゲーム特有の挙動を利用して突破口を探していく。そうした研究が積み重なったことで、Aボタンを押すことが前提だった『マリオ64』の攻略そのものが書き換えられていったわけです。
さらに興味深いのは、こうした攻略法が一人のプレイヤーだけに抱え込まれなかったことです。スターをたった一つ取るための方法を何十分もかけて解説する動画まで投稿され、その細かさに惹かれたプレイヤーが集まることで、もともとは仲間内の遊びだったAボタンチャレンジが、記録を本格的に追いかける競技へと変化していきました。
こうなってくると、目標は単に「少ない回数でクリアできた」で終わりません。43回まで減らせるなら40回、40回を切れるならさらにその先へと、残されたAボタン入力そのものが攻略すべき課題になっていきます。
そして、その研究をさらに奇妙な方向へ進める考え方が生まれました。
「Aボタン1回」を、さらに半分にできないか。
ここから登場するのが、このチャレンジを象徴するような「Aボタン0.5回」という概念です。
「Aボタン0.5回」という意味不明な世界に突入する
「Aボタンを半分だけ押す」と聞くと、ボタンを浅く押して入力を調整するような話を想像するかもしれません。ただ、ここでいう0.5回はそういう意味ではなく、一度押したAボタンの入力を、別の場面まで持ち越して利用するという考え方から生まれたものです。
そもそもAボタンの入力を細かく見ていくと、「押し込む」「押したままにする」「離す」という一連の状態に分けて考えられます。このうちマリオをジャンプさせるのは最初に押し込んだ瞬間ですが、場面によってはAボタンを押した状態が維持されているだけでも攻略に利用できます。そこで考え出されたのが、前のコースで押したAボタンをそのまま離さず、次のコースへ持ち込むという方法でした。
少し分かりにくい話ですが、感覚としては**「別の場所で使ったAボタンを、そのまま借りてくる」**と考えると理解しやすいかもしれません。一度のAボタン入力を複数の場面にまたがって利用できるなら、それぞれの場面で新しくAボタンを押したことにはならない。こうした数え方から、このチャレンジでは「0.5回」という独特な単位が真剣に扱われるようになっていきます。
普通に『マリオ64』を遊んでいる側からすると、ここまで来ると「それは本当に0.5回なのか」と言いたくなるところです。しかし、Aボタンを1回でも減らすことを突き詰めてきたプレイヤーたちにとっては、その入力をどのタイミングで発生させ、どこまで維持し、どう利用するのかまでが攻略の対象でした。単純な操作テクニックだけではなく、コントローラーからゲームへ入力が渡される仕組みそのものを利用し始めた、と考えた方が近いかもしれません。
そして2016年、この0.5回という考え方を使った攻略が公開されると、Aボタンチャレンジはさらに異様な領域へ踏み込んでいきます。対象になったのは「やみにとけるどうくつ」にある「ゴロゴロいわのひみつ」。このスターを0.5回のAボタン入力で取得するために使われたのが、後にこのチャレンジを象徴するほど有名になる、とんでもない攻略法でした。
その攻略を説明するために登場する言葉が、**「平行世界」**です。
もちろん別の世界へワープするという設定上の話ではありません。『マリオ64』というゲームが内部で行っている計算を突き詰めた結果、本来ならプレイヤーが行くことなど想定されていない場所まで、攻略ルートとして利用し始めたのです。
12時間走り続けて「平行世界」へ――もはや別のゲームになっていく
先ほど触れた「平行世界」という言葉だけを見ると、いよいよ『マリオ64』とは関係のない話に聞こえてきます。ただ、これは単なる呼び名ではなく、ゲーム内部で扱われている座標や数値計算の性質を利用した攻略法で、Aボタンをさらに減らすためには、こうした領域にまで踏み込む必要がありました。
仕組みを大まかに説明すると、マリオが通常では考えられないほど大きな速度を持った状態になることで、本来ゲーム側が想定していないほど遠くの座標へ到達します。するとゲーム側の計算では、その場所にもマリオが立てる地面が存在するかのように扱われることがあり、この特殊な領域が「平行世界」と呼ばれていました。
もちろん、普通に走っているだけでそんな場所へ行けるはずはありません。そこで使われたのが、水中にある急な坂の特定地点にマリオを引っかけ、その場から前へ進まない状態で走り続けるという方法です。位置そのものはほとんど変わらない一方で速度だけを蓄積していき、必要な状態になるまで待ち続けます。
では、どれくらい待てばいいのかというと、およそ12時間です。
数分でも数十分でもなく、半日近く同じ場所で速度を蓄積し続ける。その末にようやく平行世界を利用できる状態へ持っていき、目的のスターをAボタン0.5回で取得するという攻略でした。
ここまで来ると、操作が上手いというだけでは説明できません。スターを一つ取るために12時間という時間を攻略手順の一部として組み込み、ゲーム内部の計算まで利用する。しかも目的はタイムを縮めることではなく、Aボタンの使用回数を1回から0.5回へ減らすことにあります。
普通のRTAなら12時間待つ時点で大幅なタイムロスですが、このチャレンジでは速さよりAボタンの回数が優先されます。だからこそ「12時間かかるけれどAボタンを0.5回減らせる」という方法にも、攻略法として意味が生まれるわけです。
一方で、この方法には当時まだ大きな問題が残されていました。計算上は成立していてもツールによる補助が必要で、Nintendo 64の実機では途中でゲームが落ちてしまうため、人間がそのまま再現できる攻略ではなかったのです。その後、クラッシュを回避する別ルートも見つかりますが、この時点では「理屈として可能」と「実際に人間がクリアできる」の間に、まだ大きな隔たりがありました。
それでも研究は止まらず、Aボタンが必要だと思われていた場面は一つずつ攻略されていきます。そして長い試行錯誤の末、とうとう必要な回数は残り1回まで減りました。
ところが、この最後の1回だけは、それまでの常識外れな攻略法を使っても消すことができません。Aボタン0回クリアを阻み続けたのは、大掛かりなボスでも複雑な仕掛けでもなく、「ほのおのうみのクッパ」に置かれた一本のポールでした。
それでも残った「最後の1回」――7年以上破れなかったポール
平行世界のような通常プレイでは想像もしない攻略法まで持ち出し、プレイヤーたちはAボタンの使用回数を少しずつ削り続けました。その結果、ついに残されたのはたった1回。ここまで来れば0回も時間の問題に思えますが、実際にはここからが最も長い戦いになります。
最後まで立ちはだかったのが、「ほのおのうみのクッパ」の道中にある一本のポールでした。
このポールは先へ進むために掴む必要があるものの、普通に移動しただけでは届かない高さに設置されています。別の足場から回り込むこともできず、代わりになるルートも見つからない。結局、ポールへ届くにはジャンプするしかなく、ここだけはどうしてもAボタンを押す必要がありました。
それまでにも「ジャンプしないと無理」と思われた場所はいくつも攻略されています。Aボタン以外のアクションを利用したり、壁や坂の判定を使ったり、ゲーム内部の挙動まで持ち出したりと、普通なら思いつかない方法で突破してきました。それでも、この一本のポールだけはどうにもならなかったのです。
何百回と必要だったAボタンを1回まで減らしたにもかかわらず、その最後の1回だけが消せない。研究が進んでも状況は変わらず、次第に「Aボタン0回クリアは、そもそも理論上不可能なのではないか」と考えられるようになっていきます。そして、このポールは7年以上にわたって最後の壁として残り続けました。
ここまでの攻略を振り返ると、少し不思議にも感じます。12時間かけて速度を蓄積し、平行世界まで利用するプレイヤーたちが、一本のポールを越えられない。派手な仕掛けでもなければ、強敵との戦闘でもありません。ただジャンプしてポールを掴むという、通常プレイなら数秒で終わる場所が、Aボタン0回を目指した途端に最大の難所へ変わってしまったのです。
しかも、この壁を最終的に崩すきっかけとなったのは、新しいバグを探すための大掛かりな解析でも、誰も思いつかなかった超絶テクニックでもありませんでした。
2018年、あるプレイヤーがWiiのバーチャルコンソール版『マリオ64』を遊んでいた際、「ほのおのうみのクッパ」にマリオを置いたままゲームを起動し続け、そのまま一晩寝てしまいます。そして翌朝、画面を確認すると、本来は上下に動いて元の位置へ戻るはずの足場が、なぜか以前より高い場所まで浮かび上がっていました。
7年以上、世界中のプレイヤーが突破方法を探していた最後の1回。その答えにつながったのは、意図して発見された攻略法ではなく、ゲームをつけっぱなしにして寝てしまったことで起きた偶然だったのです。
まさかの「寝落ち」が突破口に――78時間待てばジャンプしなくていい
一晩放置しただけで、なぜ足場の高さが変わってしまったのか。調べていくと、その原因はWiiのバーチャルコンソール版『マリオ64』で発生する、ごくわずかな計算上の誤差にありました。
ゲーム内で上下する足場は、その位置を細かな数値によって管理しています。Nintendo 64版では移動する際に生じる誤差が上昇と下降で打ち消されるため、何度往復しても最終的には同じ位置へ戻ります。ところがWiiのバーチャルコンソール版では、このわずかな誤差が一方向に残り続けるため、足場が往復するたびに少しずつ高い位置へずれていく現象が起きていました。
もちろん、数回動かしたくらいでは気づけるような変化ではありません。ところが数時間、さらに何十時間と動かし続ければ、その微小なズレも無視できない大きさになります。一晩ゲームをつけっぱなしにしたことで初めて目に見える高さまで足場が移動し、それまで誰も攻略法として意識していなかった現象が偶然見つかったわけです。
そこで、「さらに長時間待ったら、足場はどこまで上がるのか」という発想が生まれます。計算した結果、導き出された時間は約78時間。丸3日以上ゲームを動かし続ければ、Aボタンを押してジャンプしなくても、例のポールを突破できる高さまで足場を移動させられることが分かりました。
普通の攻略なら、「3日以上待つ」という時点で現実的な方法とは言いにくいところです。ただ、このチャレンジで優先されるのはクリアタイムではなく、あくまでAボタンを押した回数。たとえ78時間かかったとしても、それによって最後の1回を消せるのであれば、立派な攻略法として成立します。
しかも面白いのは、7年以上も残っていた難題が、複雑な操作によって解決されたわけではないことです。誰にも越えられなかったポールを突破するために必要だったのは、極端に言ってしまえば**「何もしないで待つこと」**でした。
こうして理屈の上では、ついにAボタン0回で『マリオ64』をクリアできる道筋が完成します。
とはいえ、「理論上できる」と「実際に成功させる」の間には、まだ大きな壁が残っていました。70枚のスターをAボタンなしで集めながら問題の場所まで進み、そこで約78時間ゲームを動かし続け、待機が終わったあともAボタンを一度も押さずに最後までクリアしなければなりません。途中で操作を一度でも間違えればやり直しですし、待っている間に電源が落ちても、それまでの時間はすべて失われます。
つまり、最後の1回を消す方法は見つかったものの、今度は**「この無茶な攻略を最初から最後まで人間が通せるのか」**という問題が残ったのです。
そして2024年5月、その理論を実際のクリア記録へ変える挑戦が始まりました。
そして2024年――86時間48分30秒、ついに「Aボタン0回」が現実になる
最後の1回を消す方法が見つかっても、それだけで記録が完成するわけではありません。必要なのは、これまで積み上げられてきた数々の攻略法を一本につなぎ、最初から最後までAボタンを一度も押さずに走り切ること。そこで2024年5月、200時間を超える練習と研究を重ねたプレイヤーが、Aボタン0回でのクリアに挑みました。
もちろん、約78時間の待機さえ終われば、あとは簡単にクリアできるという話でもありません。Aボタンを封じた状態では、普段なら何気なく済ませている移動さえ特殊な操作の連続になります。長時間の挑戦だからこそ、一度のミスが持つ重みも大きく、何十時間と積み上げてきたプレイを無駄にしかねない緊張感が最後まで続きます。
中でも終盤には、成功率56.25%とされる難しいテクニックが待っていました。数字だけを見ると2回に1回以上は成功しそうに思えますが、本番ではなかなか決まらず、成功するまでに42回もの挑戦を重ねることになります。
そして2024年5月21日、ついにクッパを倒してエンディングへ到達。記録されたクリアタイムは、86時間48分30秒でした。『スーパーマリオ64』というジャンプを象徴するようなゲームで、Aボタンを一度も押さないまま最後までクリアするという挑戦が、本当に達成された瞬間です。
もっとも、この86時間という数字には少し面白いところがあります。実際にコントローラーを操作していた時間は約9時間で、残りの大部分は例の足場が少しずつ上昇するのを待つために費やされました。つまり、86時間ずっと超人的な操作を続けていたわけではなく、「操作する約9時間」と「ひたすら待つ約78時間」まで含めて一つの攻略だったということです。
ただ、この記録を一人のプレイヤーによる86時間の挑戦だけで捉えると、その凄さを少し見落としてしまいます。Aボタンの使用回数が208回だった時代から、一つのジャンプを別の方法へ置き換え、0.5回という考え方まで生み出し、平行世界のようなゲーム内部の挙動を利用しながら、最後には78時間待つという方法まで辿り着いた。その一つひとつは、長年にわたって多くのプレイヤーが積み重ねてきた研究の成果でした。
そう考えると、86時間48分30秒という記録は、この挑戦に費やされた時間のほんの一部分にすぎません。
1996年に発売されたゲームを何年も調べ続け、「もう減らせない」と思われたAボタンをさらに1回減らす。その繰り返しが約11年続いた末に、ようやく数字がゼロになったのです。
発売から長い年月が経っているにもかかわらず、『スーパーマリオ64』ではなぜここまで異常ともいえる研究が続いたのか。Aボタン0回クリアという記録を見ていくと、本作が今なお遊ばれ続けている理由も少し見えてきます。
発売から約30年――なぜマリオ64は今も「攻略され続けている」のか
Aボタン0回クリアの経緯を振り返ってみると、改めて驚かされるのは『スーパーマリオ64』が1996年に発売されたゲームだということです。発売直後ならまだしも、それから長い年月が経ったあとも新しい攻略法が見つかり、最終的には「ジャンプせずにクリアする」というところまで研究が進みました。
もちろん、これは単純にゲームの難易度が高いから起きたことではありません。普通にエンディングを見るだけなら、すでに攻略法は十分すぎるほど確立されています。それでも研究が終わらないのは、「何を目標にして遊ぶのか」をプレイヤー側で作れる余地が、それだけ大きく残されていたからだと感じます。
最速クリアを目指す人がいれば、スターの取得方法を突き詰める人もいる。その中から「Aボタンをできるだけ押さない」という遊び方が生まれ、最初は仲間内で共有されていた攻略が、やがて多くのプレイヤーを巻き込む研究へ発展していきました。誰かが一つ方法を見つければ、別の誰かがそこからさらに改良し、その成果が次の攻略へ使われる。Aボタン0回という結果だけを見るより、こうした積み重ねまで含めた方が今回の偉業の異常さは伝わってきます。
そして、その過程で使われたのは、開発側が用意した正攻法だけではありませんでした。通常なら気にも留めない地形の性質から、座標や速度といったゲーム内部の仕組み、さらにはWiiのバーチャルコンソール版で生じるわずかな計算上のズレまで、使えるものはすべて攻略へ組み込まれていきます。
ゲームを「用意されたルールの中で遊ぶもの」と考えるなら、かなり変わった楽しみ方です。ただ、用意された世界の仕組みを徹底的に調べて、その中で何ができるのかを探すことまで遊びに含めるなら、『マリオ64』は発売から何十年経っても掘り尽くされていなかったことになります。
特に今回のAボタンチャレンジが面白いのは、一人の天才的なプレイヤーが突然すべてを解決した話ではないところです。208回だったAボタン入力を43回まで減らし、そこからさらに1回ずつ削っていく。0.5回という考え方を持ち込み、それでも残った最後の1回を消す方法を何年も探し続ける。そうした研究が約11年にわたって受け継がれた末に、ようやく0という数字へ辿り着きました。
だからこそ、「86時間48分30秒」という記録だけを見て、「よくそんなに長時間ゲームをやったな」で終わらせるには惜しい話でもあります。
その86時間の後ろには、数え切れないほどの失敗と発見があり、それを次のプレイヤーが引き継いできた時間があります。発売時には誰も想定していなかったであろう「ジャンプを一度もしないマリオ64」が、長い研究の末に実際のプレイとして成立してしまったわけです。
一度クリアしたら終わりではなく、遊ぶ側が新しいルールを作れば、そこからまた攻略が始まる。『スーパーマリオ64』が約30年にわたって研究され続けてきた理由の一つは、そんなプレイヤー側の発想を受け止められるだけの余地が、このゲームに残されていたことなのかもしれません。
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